Eurasia Group | アジアにおけるネイチャー・ロスに立ち向かう:ビジネスにとってのサステナビリティの新課題 
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アジアにおけるネイチャー・ロスに立ち向かう:ビジネスにとってのサステナビリティの新課題
 


25 January 2023
Addressing Nature Loss in Asia
 


はじめに 

生物多様性とは、遺伝子から種に至るまで、地球上のあらゆる形態の、あらゆるレベルの生命の多様性 と可変性を指す。生物多様性は前例のない速さで失われつつある。生態系はかつてないほど破壊され ており、地球の歴史で6回目の大量絶滅がすでに進行している可能性があると科学者たちは主張してい る。世界の生物多様性の無傷率は75%程度と推定されており、科学者が安全と考える90%を大幅に下 回っている。人間の活動によって、氷結しない土地の75%がすでに変化している。湿地帯の85%はすで に消滅した。東南アジアだけでも、対策を取らなかった場合のシナリオでは、今世紀末までに最大で全 生物種の42%が失われる可能性がある。この破壊が懸念されるのは、生物多様性が、食料生産、気候の 安定化、水質浄化を支えるものであり、人間の生活にとって不可欠であるからだ。例えば、世界では16億 人の人々が、森林に依存して生活している。

地球には限界があることを国際社会が理解するのに役立つのが、プラネタリー・バウンダリーの概念 だ。そこで定義された九つのシステムのうち、生物多様性に関する二つにおいてすでにその限界値を 超えて危機に瀕しており、人間、種、ビジネスに存続の危機をもたらす新しい生態系の時代を迎えている
(図1を参照)。



将来の世代のために住みやすい地球を維持するために、生物多様性の損失を抑制することは非常に 重要だ。しかし、グローバル化した経済社会では、生物多様性だけでなく、地質や水など地球上のあら ゆる無生物を含む自然への依存度は、財やサービスの評価において十分に考慮されていない。世界の GDPの半分に当たる約44兆ドルは、農業、漁業、インフラ、資源採掘、林業といった生物多様性の損失 をもたらす五つの産業を含む、自然への依存度が中程度または高いセクターに関連している。

特にリスクが大きいのがアジア太平洋地域で、そこではGDPの3分の2近くがネイチャー・ロスに起因す る危機にさらされている。例えば、中国の経済生産の65%はネイチャー・ロスによる崩壊の危機にさら されているが、急速な経済成長と都市化によって中国の自然生態系は大きな打撃を受け、湿地帯は過 去たった10年間で9%も減少している。このように自然やその恩恵が損なわれ続けることは、アジア全 体の長期的な経済繁栄にとって崩壊の直接的原因となる。

自然保護に関する認識と議論は急速に変化している。ネイチャー・ロスは長い間、脆弱なコミュニティ ーや将来の世代を危険にさらすものとして、正義の問題であると捉えられてきた。しかし現在では経済 的・財政的な問題として捉えられることが多くなった。事業の継続性、経営状況、投資家のリスク認識な どに直接的・間接的な影響を及ぼしているからだ。

世界で多発する森林火災や環境災害など、近年の大きな出来事は、人々の関心を引きつけた(いわゆる 「エコへの目覚め」)。パンデミック以降、COVID-19などの人獣共通感染症の流行を、生態系の攪乱、土 地利用の変化、野生生物の世界的取引と関連付ける証拠が増え、エコへの目覚めを促している。こうし た最近の動きは、自然に関する国や地域レベルの政策行動を後押しし、企業の事業が社会的に認めら

意識の変化は民間企業にも浸透している。2021年世界経済フォーラム「グローバルリスク認識調査」で は、生物多様性の損失は、気候対策の失敗や異常気象に次いで、この10年で3番目に深刻なリスクと認 識された。社会的結束の低下や感染症などのリスクよりも上位に位置づけられたのだ。

 
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